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(保護者向け)学校検診や歯科医院受診で見つかる「口腔機能発達不全」とは?!
八幡歯科からお伝えする「ちょっと歯の話をしよう」です。お役に立つ、歯やお口の情報を歯科医院から発信いたします!
今回のトピックは「口腔機能発達不全」。お子さんの学校検診の結果や、歯科医院を受診したら「口腔機能発達不全」という項目がついたこと、気になりませんか?
近年、この「口腔機能発達不全」と診断される子どもが増加傾向にあり、保護者の間でも関心が高まっています。
「口腔機能発達不全」とはどのような状態なのか、なぜ問題なのかをわかりやすく解説します!
さらに、検診ではどのような項目でわかるのか、具体的なチェック項目や結果の見方についても詳しく説明していきます。原因が生活習慣によるものなのか、先天的なものなのか、それぞれのケースに合わせた対策方法も紹介しているので、この機会に「口腔機能発達不全」について正しく理解し、お子さんの健やかな成長をサポートするための知識を深めていきましょう。
1. 口腔機能発達不全とは?
1.1どんな状態?
「口腔機能発達不全」とは、簡単に言うと、口の周りの筋肉や動きが十分に発達していない状態のことを指します。 具体的には、以下のような状態が含まれます。
食べること(咀嚼・嚥下)がうまくできない
はっきり話すことが難しい(構音障害)
口呼吸が習慣になっている
唾液の量が少なく、口の中が乾燥しやすい
顔つきに影響が出ることもある(口がポカンと開いているなど)
これらの症状は、それぞれ単独で現れることもあれば、組み合わさって現れることもあります。
参考:日本歯科医師会
2. 学校検診で見つかること
2.1 なぜ問題なの?
口腔機能発達不全は、単に「食べにくい」「話しにくい」といった問題にとどまりません。 将来的に、以下のような様々な問題を引き起こす可能性があります。
全身の健康への影響
- よく噛まずに食べることで、消化不良を起こしやすくなる
- 栄養バランスの偏りから、成長発育に影響が出る可能性がある
- 口呼吸が習慣になると、風邪をひきやすくなったり、アレルギーが悪化する可能性がある
- 歯並びが悪くなり、虫歯や歯周病のリスクが高まる
社会生活への影響
- 集中力の低下や、学習意欲の低下につながる可能性もある
- コミュニケーションがうまく取れず、対人関係に影響が出る可能性がある
- 発音が不明瞭なために、自信を喪失しやすくなる
口腔機能は、食べることや話すことだけでなく、呼吸、姿勢の維持、顔の表情など、様々な機能と密接に関係しています。そのため、口腔機能発達不全を放置すると、子どもの健やかな成長を阻害するだけでなく、大人になってからも様々な問題を抱える可能性があるのです。
2.2 どんな項目でわかる?
学校検診では、主に以下の項目を通して口腔機能の発達をチェックし、発達に問題がないか、あるいはその兆候がないかを調べます。
検査項目 | 内容 | 口腔機能発達不全との関連 |
---|---|---|
歯並び・咬み合わせ | 上下の歯並びや咬み合わせの状態を確認します。 | 出っ歯(上顎前突)受け口(反対咬合)開咬(上下の歯が咬み合わない)交叉咬合(歯が本来の位置からずれて咬み合っている)など、不正咬合は口腔機能発達不全と関連することがあります。これらの咬み合わせの問題は、発音や咀嚼、呼吸、顔面の成長に影響を与える可能性があります。 |
口呼吸の有無 | 普段から口で呼吸をしているか、鼻で呼吸をしているかを観察します。 | 口呼吸は、口腔内が乾燥しやすく、細菌が繁殖しやすくなるため、虫歯や歯周病のリスクを高めます。また、口周りの筋肉が弱くなり、口腔機能発達不全につながる可能性があります。口唇閉鎖不全:唇が閉じにくく、常に開いている状態低位舌:舌が本来の位置より下がり、口の中を占めている状態などが挙げられます。 |
舌の動き | 舌の動きが滑らかかどうか、舌で特定の音が出せるかなどを確認します。 | 舌の動きが悪いと、食べ物をうまく飲み込めなかったり、発音が不明瞭になったりするなど、日常生活に支障をきたすことがあります。これは、構音障害の一種として考えられます。 |
発音 | 言葉の発音が明瞭かどうかをチェックします。 | 特定の発音が難しい、言葉が聞き取りにくいなどの場合は、口腔機能発達不全が疑われます。これは、構音障害と関連しており、舌や唇の動き、口蓋の形態などが影響している可能性があります。 |
むし歯の有無 | むし歯の有無をチェックします。 | むし歯が多い場合は、口腔衛生習慣が悪く、口腔機能発達不全のリスクが高まる可能性があります。 |
2.3 結果はどうやって知らされる?
学校検診の結果は、一般的には「学校検診結果通知書」や「健康診断票」などを通して、保護者のもとに通知されます。結果通知には、以下の内容が含まれていることが多いです。
- 各検査項目の結果(異常なし、要観察、要受診など)
- 具体的な所見(例:軽度の叢生、口呼吸傾向あり、サ行の発音に難ありなど)
- 精密検査や治療が必要な場合の医療機関への受診勧告
- 家庭での生活習慣改善のアドバイス
結果通知を受け取った際には、記載内容をよく確認し、特に「要観察」「要受診」とされている項目については、早めに医療機関を受診することが大切です。また、「異常なし」とされていても、気になることや不安なことがあれば、自己判断せずに医療機関に相談するようにしましょう。
3. 口腔機能発達不全の原因
口腔機能発達不全の原因は、特定の要因に限定されるものではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられています。ここでは、代表的な原因として、生活習慣の影響、先天的な要因、その他の要因について詳しく解説していきます。
3.1 生活習慣の影響
日常生活における特定の習慣や行動が、口腔機能発達不全のリスクを高める可能性があります。特に、乳幼児期における以下の生活習慣は、口腔機能の発達に大きな影響を与えるため注意が必要です。
授乳・食事
- 母乳育児の期間が短い、あるいは母乳育児を全く行わなかった場合、口腔周囲の筋肉の発達を促す機会が少なくなる可能性があります。 日本小児保健協会
- 離乳食の開始時期が遅すぎる、あるいは早すぎる場合、適切なタイミングで口腔機能を鍛える機会を逃してしまう可能性があります。また、硬さや形状の適切でない食事を続けることも、口腔機能の発達を阻害する要因となります。 厚生労働省
- 食事中に適切な姿勢を保てていない場合、食べ物を噛み砕く、飲み込むといった一連の動作がスムーズに行えず、口腔機能の発達に悪影響を及ぼす可能性があります。 日本歯科医師会
指しゃぶり・おしゃぶり
- 長時間にわたる指しゃぶりやおしゃぶりは、歯並びや顎の発達に影響を与え、結果として口腔機能発達不全のリスクを高める可能性があります。特に、3歳を過ぎても習慣的に指しゃぶりやおしゃぶりをしている場合は注意が必要です。 日本歯科医師会
口呼吸
- アレルギー性鼻炎やアデノイド肥大などが原因で、鼻呼吸よりも口呼吸が優位になっている場合、口周りの筋肉が正常に発達せず、口腔機能発達不全につながる可能性があります。 日本耳鼻咽喉科学会
3.2 先天的な要因
生まれつき持っている体の特徴や、妊娠中の影響などが原因で、口腔機能発達不全のリスクが高まる場合があります。以下は、先天的な要因の代表的な例です。
遺伝的要因
- 両親や親族に口腔機能発達不全の症状が見られる場合、遺伝的にそのリスクを受け継いでいる可能性があります。 日本顎口腔機能学会
妊娠中の影響
- 妊娠中の母親の栄養状態や、喫煙、飲酒、薬物摂取などの生活習慣は、胎児の成長に影響を及ぼし、口腔機能発達不全のリスクを高める可能性があります。 国立成育医療研究センター
周産期の影響
- 早産や低出生体重児として生まれた場合、口腔機能の発達に遅れが生じるリスクが高まります。また、出産時のトラブルなどにより、口腔周囲の組織に損傷を受けた場合も、口腔機能発達不全につながる可能性があります。 日本小児科学会
先天性疾患
- ダウン症候群や口唇口蓋裂などの先天性疾患を持つ場合、口腔周囲の形態異常や機能不全を伴うことが多く、口腔機能発達不全のリスクが非常に高くなります。 日本小児外科学会
3.3 その他の要因
生活習慣や先天的な要因に加えて、以下のような要因も口腔機能発達不全に影響を与える可能性があります。
全身疾患の影響
- 脳性麻痺や神経筋疾患などの全身疾患は、口腔周囲の筋肉の運動機能や感覚機能に影響を及ぼし、口腔機能発達不全を引き起こす可能性があります。 日本小児神経学会
環境要因
- 周囲の人とのコミュニケーションが少ない、あるいはテレビやスマートフォンの使用時間が長いなど、口腔機能を使う機会が少ない環境は、口腔機能発達不全のリスクを高める可能性があります。 厚生労働省
心理的要因
- 強いストレスや不安、緊張などを感じている場合、口腔周囲の筋肉が緊張しやすくなり、口腔機能の発達に影響が出る可能性があります。 日本心理学会
口腔機能発達不全の原因は多岐にわたり、これらの要因が複雑に絡み合っている場合もあります。そのため、原因を特定するためには、歯科医師や言語聴覚士などの専門家による診察や評価が必要です。専門家は、子どもの状態や生活習慣などを詳しく聞き取り、適切な検査や観察を通して、原因を分析していきます。
口腔機能発達不全は、早期発見・早期治療が重要です。気になる症状がある場合は、早めに受診し、適切なアドバイスや治療を受けるようにしましょう。
4. 口腔機能発達不全と言われたら歯科医院に相談
口腔機能発達不全と診断された方、またはその可能性が疑われる方は、実際当院にもいらっしゃいます。
詳しい統計は未発表ですが、3割程度とも言われています。男女の性差はなさそうです。
当院での対策方法や家庭でのケアについて詳しく紹介していきます。
4.1 5歳以下のお子様のための小児検診(プレカム)
5歳以下の口腔機能発達不全症予防、または改善のため、定期的な発達指導と評価を行っています。乳歯が生え始め頃からは、フッ素塗布や離乳食指導を行います。口腔機能の低下したお子さんは、飲み込み方が悪く、離乳食の進みが悪い、偏った食形態のものを食べる、など、特徴があります。食事の仕方(噛む動作)によっては、呼吸や姿勢にも影響が出やすく、健全な発達を促すためにもお口の状態の観察が必要となります。乳期から離乳食期は、歯並びや口腔機能の育成に大きく影響を及ぼすと言われています。お口の機能を育て、きれいな歯並びのお子さんに育てるための離乳食の与え方と進め方の注意点について歯科の視点でお伝えします。幼児期からは食育、栄養相談、睡眠や遊びのアドバイスも行います。
身体の発達の目まぐるしい幼児期に全身の発達と共にお口の使い方や呼吸の仕方も獲得でき、遊びや食事を通して、健康的な発達が進むように、管理栄養士と歯科衛生士による専門的指導を行います。
不正歯列、不正な顎顔面の成長、口呼吸、食機能低下、閉塞性呼吸障害、睡眠障害などの予防の指導は、保護者様たちからも大変好評です。
スタッフらも、勉強になりますし、お子様たちが楽しく歯科医院に通えること、お口を通して全身の発達を促せることにとてもやりがいを持っています!
4.2 小児矯正(予防矯正)でお口のクセを改善する
歯並びが悪くなる原因は遺伝だけではありません。口呼吸・舌の癖・舌を正しい位置に置けない・お口まわりの筋肉が成長できていない・力が入りすぎている・嚥下に問題があるなど、さまざまな悪習慣(口腔習癖)が関係しています。特に口呼吸は細菌が体内に入りやすく、風邪を引きやすくなる恐れがあり、歯並びやお口だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼします。歯だけを動かしても、歯並びが悪くなる本来の原因を解決できていなければ、矯正治療後に元通りになってしまいます。当院で重視していることは、舌の正しい位置や鼻呼吸であり、矯正装置によって口腔機能の成長もサポートできます。
当院の予防矯正治療では理学療法士指導・監修によるピラティスを用いた姿勢改善プログラムを導入しています。
また、矯正専門の歯科医院と連携し、監修された治療計画で全症例の治療を進めるため、的確な診断と計画が可能です。
実際に予防矯正で受診された方からは、「子供の予防矯正で丁寧に指導してくれて、子供も嫌がらずに通ってくれます。アクティビティもチェックも丁寧にしてくれました。」とのお声を多数いただいています。
当院では、予防矯正を専門としたチームが、一人ひとりのお子様に対し適切なアクティビティを立案し、ご提案いたします。
チームには理学療法士や栄養管理士も在籍しておりますので、安心しておまかせください。
4.3 家庭でできること
専門機関での治療と並行して、家庭でもできることがあります。日常生活の中で、口腔機能の発達を促すような働きかけを意識することが重要です。
食事の工夫
食事の際に、よく噛んで食べる習慣を身につけることは、口腔機能の発達に大きく貢献します。以下のようなポイントを意識してみましょう。
よく噛んで食べるように声かけをする
「美味しいね」「よく噛んでね」など、楽しく食事ができるように声かけをしましょう。
食材を大きくカットする
一口で食べられない大きさにすることで、自然と噛む回数が増えます。
硬さの異なる食材を組み合わせる
硬いものばかりではなく、柔らかい食材も組み合わせることで、バランスよく噛む力を鍛えられます。
口の周りのトレーニング
口の周りの筋肉を鍛えることは、正しい舌の動きや呼吸を促し、口腔機能の発達をサポートします。遊び感覚で楽しく取り組めるトレーニングも多いため、ぜひ親子で一緒に実践してみてください。
トレーニング | やり方 | 効果 |
---|---|---|
あいうべ体操 | 「あ」「い」「う」「べ」と口を大きく動かして発音する。 | 口周りの筋肉を鍛え、表情筋の発達や滑舌の改善に効果が期待できる。 |
風船を膨らませる | 風船を膨らませることで、呼吸筋を鍛え、口唇の閉鎖力を強化する。 | 口呼吸の改善や、正しい発音の習得に役立つ。 |
舌の体操 | 舌を上下左右に動かしたり、舌先で歯茎を内側から押すなどの運動を行う。 | 舌の筋力を強化し、食べ物を飲み込みやすくしたり、発音を明瞭にする効果がある。 |
ガムを噛む | 砂糖不使用のガムを噛むことで、咀嚼筋を鍛え、唾液の分泌を促進する。 | 集中力向上やストレス軽減の効果も期待できる。ただし、歯が生え揃っていない場合は避ける。 |
これらの対策は、あくまでも一般的なものであり、すべての人に当てはまるわけではありません。口腔機能発達不全の症状や程度には個人差があるため、専門機関を受診し、その子に合った適切な治療やサポートを受けることが重要です。早期発見・早期治療によって、健やかな口腔機能の発達を促しましょう。
参考資料:
5. まとめ
今回は、検診で指摘されることの多い「口腔機能発達不全」について解説しました。
食事や発音など、日常生活に影響を与える可能性のある口腔機能発達不全は、早期発見・早期対応が重要です。
学校検診の結果を踏まえ、お子さまの口の状態に不安を感じたら、一度当院にご相談ください。
日頃から、よく噛んでいろいろな形態のものを食べる、正しい姿勢を心がけるなど、ご家庭でもできることから取り組んでいきましょう。